少人数の動物病院でも就業規則は必要?整備するメリットと院長が知っておきたいポイント

個人経営の昔ながらの動物病院だと、従業員は数人のケースもけっこうあると思います。

そのため、就業規則は必要ないと考えている院長先生も多いのではないでしょうか。

確かに、法律上、就業規則の作成・届出が義務付けられるのは、原則として常時10人以上の労働者を使用する事業場です。

しかし、従業員が10人未満であれば、労務管理について何も決めなくてよいというわけではありません。

むしろ、少人数で運営する動物病院だからこそ、労働条件や院内のルールを明確にしておくことが重要です。

今回は、少人数の動物病院が就業規則を整備する意味や、作成する際に押さえておきたいポイントについて解説します。

※本件は動物病院をテーマに書いていますが、他の小規模事業者様も基本的には同様です。

1.従業員10人未満の動物病院に就業規則の作成義務はある?

まず、就業規則の作成義務について確認しておきましょう。
労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対し、就業規則の作成と所轄の労働基準監督署への届出を義務付けています。
ここで注意したいのは、10人という人数は、原則として会社全体ではなく事業場単位で判断するという点です。
また、雇用形態にかかわらずパートやアルバイトも人数に含まれます。

例えば、ある動物病院で獣医師2人、愛玩動物看護師4人、受付スタッフ2人、パートスタッフ1人が働いている場合、合計9人となります。

この場合、常時使用する労働者が10人未満であれば、労働基準法第89条に基づく就業規則の作成・届出義務は原則としてありません。

ただし、これは就業規則を作成する必要がないという意味ではありません。

労働時間、休憩、休日、賃金、年次有給休暇などについては、就業規則の有無にかかわらず、労働関係法令に従って適切に運用する必要があります。
また、労働条件の明示など、就業規則とは別に必要となる対応もあります。

少人数の動物病院であっても、日頃の労務管理を適切に行うことが重要です。

※10人「以上」なので10人ちょうどは義務があるということになります。

2.少人数の動物病院こそ就業規則を整備したい3つの理由(+おまけ)

理由① 院長とスタッフの認識の違いを減らせる

少人数の動物病院では、院長とスタッフの距離が近く、細かなルールを口頭で伝えて運営しているケースもあるでしょう。

例えば、次のような事項です。

・休日や時間外の取扱い

・病気休職・私傷病の取扱い

・退職のルール

・懲戒のルール

院長としては当然のルールだと思っていても、スタッフには十分に伝わっていないことがあります。

また、口頭での説明は、伝えた側と受け取った側で認識が異なったり、スタッフによって説明内容が変わったりする可能性もあります。

就業規則などの文書にルールを整理しておけば、院内で共通の基準を持ちやすくなります。

もちろん、就業規則に記載すれば、どのようなルールでも有効になるわけではありません。法令に適合した内容にすることが前提です。

尚、懲戒などは特に注意が必要で、厚生労働省も「懲戒権の法的根拠として就業規則において懲戒事由と手段を明記することが求められる」としています。

理由② スタッフの退職やトラブルに備えられる

少人数の動物病院では、スタッフが1人退職しただけでも、診療体制や日々の業務に大きな影響が生じることがあります。
そのため、採用や日常の労務管理だけでなく、退職時のルールも重要です。
例えば、退職の際貸与していた制服や備品をどう返却するのか、引継ぎをどのように進めるのかといった事項です。
また、遅刻や欠勤が続く場合、職場内で問題が発生した場合などについても、対応の基本方針を整理しておくことが考えられます。
ただし、退職に関するルールや懲戒処分などは、就業規則に記載すれば自由に運用できるものではありません。労働関係法令や個別の事情を踏まえた対応が必要です。
問題が発生してから慌ててルールを決めるのではなく、あらかじめ院内の基本方針を整えておくことが、安定した病院運営につながります。
従業員とのトラブルになった際も、就業規則がない(または周知されていない)と、懲戒処分等の根拠が不明確になり、処分自体が争われるリスクが高まります。

理由③ 採用や人材定着の基盤になる

動物病院では、獣医師や愛玩動物看護師などの専門職を確保し、長く働いてもらうことが重要な経営課題の一つです。
採用活動では、給与や仕事内容だけでなく、働き方や職場環境も求職者にとって重要な判断材料になります。
例えば、勤務時間や休日、休暇制度、育児・介護との両立に関するルールなどが明確になっていれば、働く側も入職後の生活を具体的にイメージしやすくなります。

反対に、入職前に聞いていた労働条件と実際の運用が異なったり、休暇の取得方法が曖昧だったりすると、不信感につながるおそれがあります。
就業規則を整備するだけで人材が定着するわけではありません。しかし、職場のルールを明確にし、公平に運用することは、働きやすい環境を整えるための基礎になります。
スタッフが安心して働ける環境は、院長にとっても安定した診療体制を維持するための重要な要素です。

おまけ:助成金の活用がしやすくなる

本来の就業規則の目的とは別ですが、多くの助成金で支給要件に就業規則が適切に作成・周知されていることが求められています。

例えば、働き方改革推進支援助成金の参考様式には、常時雇用する労働者が10人未満で就業規則を届け出る必要がない場合に、全従業員への周知と公正かつ適正な施行を申し立てる書式があります。

※助成金の要件は年度ごとに変わります。実際の申請の際は最新の要領を確認してください。

3.動物病院の就業規則で確認したいポイント

就業規則を作成する際には、一般的な会社向けのひな形をそのまま使用するのではなく、実際の診療体制や勤務実態に合っているかを確認することが大切です。

特に、次のような事項は確認しておきたいポイントです。

労働時間と休憩時間

診療時間とスタッフの勤務時間は、必ずしも一致するとは限りません。

診療終了後の片付け、カルテ入力、入院動物の世話、院内清掃などが発生する場合には、それぞれの業務を踏まえて勤務時間を管理する必要があります。

また、休憩時間として設定していても、電話対応や来院対応を求められるなど、実際には自由に利用できない場合には、労働時間として扱う必要が生じることがあります。

就業規則上の記載だけでなく、実際の勤務状況も確認しましょう。

休日と時間外労働

動物病院では、診療日や診療時間に合わせて勤務シフトを組んでいる場合があります。

そのため、休日の設定や時間外労働の取扱いについて、実際の勤務形態と整合しているか確認することが重要です。

法定労働時間を超える時間外労働や法定休日の労働をさせる場合には、原則として36協定の締結・届出が必要となります。

就業規則を整備するだけで、時間外労働を自由に命じられるようになるわけではありませんが、時間外労働の根拠となる規定は用意しておくべきでしょう。

賃金と各種手当

基本給のほか、資格手当、役職手当、固定残業代などを設けている場合には、それぞれの支給条件や計算方法を整理しておくことが大切です。

特に固定残業代については、通常の賃金部分と固定残業代部分を判別できるようにすることや、実際の時間外労働に対する割増賃金が不足していないかなど、適切な運用が求められます。

また、給与計算の方法や賃金の締切日・支払日についても、労働条件と矛盾がないか確認しましょう。

休暇や休職に関するルール

年次有給休暇は、法律上の要件を満たした労働者に付与しなければなりません。

そのため、就業規則がないことを理由に、有給休暇の取得を認めないという対応はできません。

余談ですが、私が昔勤務していたところでは、「うち、有給休暇ないから」と言われ当時何の知識もなかった私はそれを鵜呑みにしていました…良くない。

また、病気やけがによって長期間勤務できなくなった場合の休職制度や、育児・介護と仕事を両立するための制度などについても、病院の運営実態に合わせて整理することが考えられます。

休職制度などは、法律上の義務の有無や制度ごとの要件を確認しながら、どのような制度を設けるのか検討しましょう。

※有給休暇付与及び法定の有給付与日数が10日以上の従業員に対する5日の取得義務は当然従業員の人数にかかわらず必要です。

4.就業規則は作成するだけでは意味がない

就業規則を作成する際に、もう一つ注意したいことがあります。

それは、作成した就業規則を実際の運用と一致させることです。

例えば、就業規則には休憩時間を明記しているものの、実際にはスタッフが電話対応などから離れられない状態になっているケースが考えられます。

また、就業規則では特定の手当について支給条件を定めているのに、実際の給与計算では異なる基準を使用している場合もあるでしょう。

こうした状態では、就業規則を作成しただけでは十分とはいえません。

まずは、現在の勤務実態や給与計算、院内でのルールを確認し、実態に合った内容に整備することが大切です。

また、就業規則を作成・変更した場合には、労働者への周知も重要です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成・変更時の意見聴取や届出など、法律上必要な手続きも確認しなければなりません。

5.少人数の動物病院こそ、早めの労務管理を

就業規則は、従業員が増えてから慌てて作成するものとは限りません。

少人数の段階から院内のルールを整理しておくことで、労働条件についての認識の違いを減らし、採用や人材定着に向けた職場環境の整備にもつなげられます。

特に、動物病院では、診療時間や入院動物への対応など、一般的な事業所とは異なる事情が生じることがあります。

そのため、単にひな形を用意するのではなく、病院の実態に合わせて労務管理の仕組みを整えることが重要です。

「うちはまだスタッフが少ないから大丈夫」と考えるのではなく、今のうちから勤務時間や休暇、賃金などのルールを確認してみてはいかがでしょうか。

当事務所では、動物病院の労務管理に関するご相談を承っております。

就業規則の作成・見直しをはじめ、現在の労務管理に不安がある場合も、お気軽にご相談ください。